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剣菱に宿るもの

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小さいことに、大きな意味がある

麹蓋(こうじぶた)

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麹蓋(こうじぶた/通称“フタ”)とは、麹づくり(蒸したお米に麹菌を繁殖させていく作業)において昔から使われている小型の容器のこと。

麹づくりは、麹室(こうじむろ)という高温多湿な専門の部屋のなかで48時間〜56時間かけて行われるが、“部屋”という性質上、どうしても中央と隅、手前と奥、天井に近いところと床に近いところとでは、その温度や湿度が若干異なる。そこで、この麹蓋にお米を小分けにして盛り、細かく場所を移動させることで、温度と湿度の面ですべてのお米の条件が同じになるよう調整。部屋の隅に積み上げられた麹蓋を中央に、奥の麹蓋を手前に、上段に積み上げられた麹蓋を下段に……と、約3時間おきに移動や積み替えを繰り返すことで、すべての米粒のなかに均一に麹菌を繁殖させていく。

もちろん、同様の大きさであれば容器はなんでもいいというわけではない。というのも、この麹蓋には昔から脈々と受け継がれし日本の伝統芸が。

特筆すべきは、底の部分。しなるほど薄い麹蓋の底には、木を“切る”のではなく“割る”ことで1枚の板にする「割り板」が使われている。のこぎりやカンナを使わず、手で割ることで均一の厚さの板をつくり上げるのは至難の業。職人の長年の経験と豊富な知識が一瞬の技に注がれ、それにより生まれた独特の木肌から送り込まれる適度な空気が、お米を理想的な麹へと導いていく。

ちなみに、近年は積み替えや手入れの労力を省くため、この小さな“フタ”に代わって“ハコ”と呼ばれる、その名の通り大きな箱を用いた「箱(式)麹法」や、機械による「機械製麹(せいきく)法」が主流。麹蓋を使用する「蓋麹法(ふたこうじほう)」は今や「在来法」とも呼ばれ、特別な酒を造るときのみに用いられることがほとんどだが、剣菱では製造する酒の全量を「在来法」を用いて造っている。

まさに“小さなことの積み重ね”。でも、それが剣菱の味を大きく左右する。

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